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酪農・畜産業における複数世代の牛群にわたった経営シミュレーター構築
課題
経験に基づいた日々の判断が、数字で裏づけられていなかった
ある酪農牧場にて、乳牛の飼育と搾乳に加え、肥育・経産牛の出荷や初妊牛の販売、さらには牧草の生産・販売など、複数の収益源をもつ多角的な経営が行われていた。日々の運営や判断は長年の経験に裏打ちされたもので、現場には豊富な知見が蓄積されていた。
ただ一方で、そうした日々の判断を「数字として裏付ける仕組み」は限られており、経営全体の収支構造や将来見通しを定量的に把握するのが難しい状況だった。
たとえば、今いる牛群の構成が今後どのように推移していくのか、それにともなって乳量や出荷頭数がどう変わっていくのか、どこを改善するとどう跳ね返ってくるのか──
そうした問いに、データとして答えられる環境はまだ整っていなかった。
また、年によっては売上や予算達成のために出荷や仕入れの調整を行うこともあり、長期的な投資判断や改善計画を立てるうえで、もう一段深い可視化が求められていた。
アプローチ
収益・費用の将来予測を可能にする計算モデルを実装
そこでまず行ったのが、牛群の構成と将来推移をデータで捉えるためのツールづくりだった。
現時点での年齢分布や繁殖状況に加え、搾乳ログ、受胎・懐妊・淘汰率などの一般的な統計データも活用し、複数世代にわたる牛群の動きを予測するシミュレーターをスプレッドシートとGASで構築。日々の管理業務に馴染みやすいよう、シンプルな操作性と更新性を意識した。
あわせて政府統計データとより、生乳買取価格や家畜市場での取引価格、飼料コストの推移などのデータも取り込み、将来の収益や費用を見通す計算モデルを組み込んだ。
このシミュレーターにより、たとえば「この時期に出荷計画を調整すると、1年後の収支にこう影響する」「今の群構成では、来年の乳量はこれくらいが見込まれる」といった将来のシナリオを事前にシミュレーションできるようになった。
また、副次的な効果として、これまで時間がかかっていた営農計画書の作成も大幅に効率化。現場での意思決定と、経営の中長期的な計画づくりの橋渡しとなるツールとなった。